情報科の授業は教養に過ぎないという話 - 東京工業大学附属科学技術高校編
はじめに
こんにちは yosida95 です。 このエントリでは、以前から私が抱いてた高校に関するもやもやについて、ようやく日本語に落とし込める程度に整理できたので共有します。
私は2011年から東京工業大学附属科学技術高校の情報・コンピュータサイエンス分野というところで3年間学んできました。 というか、現在も在籍していて、後は3月末日の卒業を待っているところです。 卒業できたらいいな。
さて、私と交友のある方や、私の twitter をご覧の方はご存知かと思いますが、私はこの高校に入学して以来ずっと違和感を感じてきました。 2年生の時には退学を考えた末親の説得に成功し、クラス担任・副担任・私の母・私で面談をしました。 最終的には、私の周囲の大人達になだめられたり、諌められたりしたことで思いとどまり、現在に至っています。 しかし退学の意思が雲散霧消したわけではなく、登校も惰性によるものです。
入学まで
まずは、中学生の時の私は何を期待して東京工業大学附属科学技術高校を選択し、どうやって入学したかについてお話します。
中学生当時の私は他人より少しだけ記憶力が良いことを生かして、いわゆる学校の勉強を授業中に先生の話を聞くことだけで済ませ、常に学年トップクラスの成績を維持していました。 そのため、自宅学習の必要に迫られることは一切無く、有り余った放課後の時間のすべてを友人と遊ぶことやプログラミングをすること、生徒副会長として友達と自分の学校生活を充実させるための活動にあてました。 遊ぶ金欲しさに、当時陰りつつあったものの未だブームの中にあったドロップシッピングに乗って、 PHP でオンラインストアを作って物販をしていたことを覚えています。
いざ受験期に突入して周囲が受験勉強を始めている中でも、私はこのオンラインストアの運営の事に頭を使っていました。 進学先については、今まで独学でしかなかったプログラミングについて、体系的に学ぶことでその技能を向上させるべく、情報系の高校に進学したいと思っていました。
しかし、特定の高校に進学したいと考えていたわけではなく、都内にある情報系の高校でそこそこ偏差値が高い高校であればどこでも良いだろうと考えていました。 この候補に上がった高校が東京工業大学附属科学技術高校と、高校ではありませんが東京工業高等専門学校(東京高専)でした。 この2つしかなかった選択肢の中から、私は東京工業大学属科学技術高校を選択しました。 この選択が中学3年生の10月頃の話だったと思います。 入試には学校推薦入試と一般入試があり、模擬試験で偏差値が72あった私は一般受験でも十分合格できると思いましたが、より実施が早く、従ってより早く進路が確定する学校推薦入試によって合格を果たしました。
このような調子で進学先の高校を決定したため、高校の所在地を初めて知った日は、学校推薦入試のその日でした。
違和感
ここで、東京工業大学附属科学技術高校の教育カリキュラムを簡単に説明します。 まず、東京工業大学附属科学技術高校には、私が所属している情報・コンピュータサイエンス分野の他に、応用化学分野や建築・デザイン分野など合わせて5つの分野があります。 1年生の時には学年の生徒全員が同じカリキュラムで学習をします。 このカリキュラムの中に「科学技術入門」という教科があり、この教科のなかでこれら5つすべての分野について導入学習を行います。 その後、2年生への進級に際して5つの分野の中からいずれか1つを選択し、2年生・3年生では選択した分野毎のカリキュラムに従って学習を進めていきます(ただし、学校推薦入試で入学した生徒は入学の時点で進む分野が決定しています。)。
さて、無事入学を果たした私でしたが、入学3日目くらいにまず些細な違和感を感じました。 それは、「私のクラスに私と匂いがする人間がいない」というものです。 願書の志望動機に「同じ領域に興味をもつ仲間と切磋琢磨したい」と書いて合格した私は、早速私以上のレベルで物を語れ、私以上のレベルでコードを書ける仲間を見つけようと思ったのですが、これでは幸先の悪いスタートです。
次に感じた違和感は授業のレベルについてです。 前述の科学技術入門で情報・コンピュータサイエンス分野に関する授業のレベルがあまりにも初歩的な物だったのです。 冗談抜きに「それ小学生の時にやったわーつれーわー」ってかんじでした。
このような経緯で入学して早々に志望動機を叶えることに絶望しかけた私でしたが、まだ1年生ということで分野が分かれていないこともあり、2年生になって分野が分かれればきっとより専門的な内容に進んで行くのだろう、その時には私の他に情報の推薦入試によって入学したレベルの高いクラスメートもできるのだろうと思うことで希望をつなげました。
希望をつなげたとは言え、少なくとも1年生の間に学校で何事かをなせるとは考えられなかったので、夏休みが明けた頃から私は積極的に勉強会やハッカソンなどに顔をだすようになりました。 その中で、職業でプログラマをやっている方々や、大学でコンピュータサイエンスを学んでいる方々などとの交流を持ちました。 私が作ったプロダクトについて発表をしたり、それについて賛辞やアドバイスを頂いたり、私にとって学校の外の世界は大変居心地がよく、わくわくさせられる世界でした。
2年生進級と退学
そんな感じで2年生に進級し、ようやく情報・コンピュータサイエンス分野のカリキュラムに従った学習ができるようになったわけです。 しかし、抱いていた幾ばくかの期待は裏切られ、肝心の授業の内容と言えば1年生の時とさほど変わらず、またとてものんびりとしたスピードで進行していきました。 この件について、情報の定期テストの意見欄に書いたところ、担当の教諭から後日「あなたのレベルとペースに合わせていたら誰もついて来られなくなるから。点数さえ取れば授業中に別のことをしていてよいよ。」と言われてしまいます。 いよいよ私は危機感を募らせます。 これでは新しい事は一切学べないのではないか、一体私は何をしにこの高校に進学したのか、このままでは3年間を溝に捨てることになってしまうのではないか―――
ついに私は退学を考え始めました。 これと期を同じくして私の元へ IT 企業から、それも多くの人が名前を知っているような企業からも私の能力を買うメールが届き始め、退学をしたところで、高校を卒業しなかったところで、世の中を生きていけるのではないかと思ったことも退学を決意する後押しとなりました。
親を説得することに成功した私は、親を通じて退学の意思を学級担任へ伝えました。 すぐさま面談の場が持たれ、冒頭に書いた4者での面談が行われました。 面談の中では退学を決意した経緯や将来設計のことなどについて聞かれたと記憶しています。 学級担任(数学科)は「私には専門的なことや IT 業界のことは分からないので……」と終始聞く側に回っていました。 そんな感じで進行した面談でしたが、社会の厳しさを説かれたり、私とほぼ同様の理由で退学を考えたものの結局大学へ進学した卒業生を紹介されたりしている内に、話の流れと私の決意を有耶無耶にされ、とりあえず再度熟考するという形で退学は保留となりました。
このような経緯で退学の機を逃した私でしたが、学校に行くモチベーションは完全に失われ、ただ惰性で学校に通うようになりました。 そのことから遅刻や欠席もしだいに増えていきました。 学校をサボってひたすらコードを書いていた日はこれまでに1日や2日ではありません。
不満点
このように、退学を考えるまでに至った3年間でしたが、私は一体東京工業大学附属科学技術高校の何が不満だったのか、その不満点を整理してみます。
- 専門分野の授業に専門性がなかった
- 独学で進めてきたコンピュータの学習を体系的に学び私の技能を向上させる事を期待して入学したものの、授業の内容は初歩的なもので、とても技能の向上につながらなかった
- 入学の時点で、私の技能はすでに学校のカリキュラムで身につく技能のレベルを超えていた
- クラスメートの専門性が低かった
- 情報・コンピュータサイエンス分野を選択する生徒は例外なくコンピュータに興味を抱いているものと信じていたが、決してそうではなかった
- 特に学校推薦入試によって入学してきた生徒は、すでにある程度のスキルを持っているものと信じていたが、決してそうではなかった
- 私が入学した翌年の学校推薦入試の面接を担当した教諭によれば、「単にゲームをプレイすることが好きだから」という志望動機を臆面もなく面接で発言する程度の受験生しか居なかったそうだ
- 自分よりもスキルの高い生徒と切磋琢磨して私自身の技能を向上させる事を狙って入学したが、それは果たせなかった
- 普通の学校でスキルの高さを持て囃されることに慢心してスキルの向上が妨げられてしまわないように、周囲のレベルの高さに叩きのめされて努力を怠れない環境が欲しかったが、それは叶わなかった
- 進学校であった
- そもそも生徒はコンピュータになんて興味がなかった
- 分野特有の授業に加えてセンター入試等に必要になる教科も履修する、時間的に無理があるカリキュラムが組まれている
- 無理があるカリキュラムであるため自宅学習課題の量が多かった
- 放課後の時間を使って課題を処理することが求められた
- 無理があるカリキュラムであるため終業時刻は他の学校のそれと比べると遅い
= そもそも放課後にとれる時間が少ない
- わずかに確保できた放課後の時間は課題の処理に溶かされていく
- スキル向上を図る独学のために確保できる時間は皆無だった
- 無理があるカリキュラムであるため自宅学習課題の量が多かった
結論
進学先を間違えた
中学生時代に体験入学の制度などを活用し、東京工業大学附属科学技術高校の本質を見抜いておくべきだった
申し送り
結論がでたのでこのエントリは終了しても良いのですが、それだと次に繋がるものが無いので、私と同じ境遇にある諸氏に申し送りをしておきます。
中学生向け
- 進学先高校についてよく調べましょう
- 高校で専門的な事を学ぶことは諦めましょう
- 独学を進めるための時間や、学校外の世界で活動するための時間を最大限確保しましょう
- 高校に行かないという手段もあります
- 中学生時代の私はこの選択肢を知りませんでした
- 大学への進学には、高校卒業程度認定試験に合格して入試を受けるという経路もあります
- スクーリングが少ない通信高校に通うという選択肢もあります
- 学校の学習に使う時間と専門的な学習に使う時間の配分を自分で決められます
- 終業や始業の時間が自由に設定できるため、 IT 企業で働くための時間も十分に取れます
高校生向け
- ご愁傷さまです
- 退学は手遅れになる前にした方がよいです
- 一刻を争います
- 次の進路が見えているのなら、退学は立派な選択肢です
- ずるずると決定を先延ばしにすると選択肢が少なくなっていきます
- 外の世界を見ましょう
- 今の時代は SNS を使うだけで本来なら接点がなかったような人とも簡単に繋がれます
- 人と人との距離は飛躍的に近づきました
- 勉強会での発表は良い経験になります
- あと1年早ければ CombConf というものがありました
- CombConf という IT カンファレンスを開催してきました #combconf
- 第2回はありません
- 技術系のバイトはよい経験になります
- 今の時代は SNS を使うだけで本来なら接点がなかったような人とも簡単に繋がれます
免責
なお、このブログエントリを真に受けた事によって生じた利益や不利益について私はもちろんあなたの周囲の誰も責任を取りません。 自分の進路における決定はすべて自分の責任の下に行なわれるべきです。 しかし、無責任な周囲による無責任な意見を積極的に聞いて自分自身で咀嚼した方がお得です。 あなたは自身が想像している以上に視野狭窄です。 周囲の意見を聞くことで、自分だけでは考えつかなかった選択肢がいくつも出現して裏ステージへ進める可能性が高まります。
私自身がひどい視野狭窄に陥っている可能性が高いので、周囲の意見を聞こうという自戒です。 よろしければ、このエントリや私の考え方についてご意見や反論などをください。
最後に
こういうエントリを書くと、専門ではない授業の重要性を説かれることになります(例: No Title (近況報告)のコメント)。
私は、生涯学習の重要性や素晴らしさについては認識しているつもりですが、すでに自らの選択するべき職業について明確に自覚していて、手に職をつけるべきタイプの人間が義務教育を修了した後に専門的では無い事を意識的に、あるいは体系立てて学ぶ必要性やその重要性についてはいまいちピンときていません。 学びたいことや学ぶべきことについて、それを学ぶ必要が生じた時に生涯学習の一環として学べばよいと考えていることがその理由です。
そして、生涯学習を実践していくためには時間的な余裕や金銭的な余裕が必要だと思います。 それらの余裕を手に入れるには、一般にドカタのようなポジションではなく、専門的な技能を持った専門職である必要があり、またある程度の社会的地位が要るはずです。 つまり、社会人デビューする時にはすでに専門技能を有している必要があると考えます。
これまでに3つの会社で(アルバイトではありますが)エンジニアとして勤務してきた経験や、属するコミュニティで聞いてきた話、目の当たりにした出来事などによれば、技能を磨いていけばある程度の会社で専門職として勤務するところまでは到達できます。 従って、学生や生徒である期間に専門的では無い事を学ぶために自らの専門性を高めることを制限することは却ってよくないのでは無いでしょうか。
余談
はてなブログのエントリエディタにある文字数カウンタによれば、このエントリは 6,271 文字によって構成されているそうです。 400字詰め原稿用紙にして16枚分。 久しぶりにこれほどの長文を書きましたが、こんな長文を書いている時間があるのなら卒業に必要なレポートを書けよという話です。
追記
他校の事例
わたしの記事に呼応して複数の方がご自身の情報系の学校における体験談を共有してくださいました。 この記事のタイトルを「情報科の授業は教養に過ぎないという話 - 東京工業大学附属科学技術高校編 」としたように、他の学校でにおいてもわたしと似た体験やあるいは異なる体験があるだろうと思い、この記事は是非それらを伺いたくてまず自分の体験談を公開したという目論見もあったので、体験談が数年をかけて集まってきたことがとても嬉しいです。
ご自身の体験談を共有してくださった皆さまにお礼を申し上げます。
- 情報科の授業は教養に過ぎないという話 - 木更津工業高等専門学校編 (2013.12.22)
- 情報科の授業は教養に過ぎないという話 - 別の視点から (2013.12.22)
- 情報科の授業は教養に過ぎないという話 - 国立大学法人 電気通信大学編 (2013.12.26)
- 情報(工学)科の授業は教養ですらないという話 – 慶應義塾大学編 – KCS ComputerSociety (2018.12.26)
- ソフトウェア情報学科の授業は教養に過ぎないという話 — 岩手県立大学編 (2019.03.03)
2013-12-21T15:31:26Z
ホッテントリジェネレータで東京工業大学附属科学技術高等学校って入れたら東京工業大学附属科学技術高等学校は即刻滅亡すべきって出てきたから @yosida95 はいますぐこれにタイトルを変えるべき
— DJ香風智乃 (@masawada) December 21, 2013
2013-12-21T18:20:18Z
私の進路について、このエントリのコメントやはてなブックマークで言及されているようなので追記します。 来年の4月から、現在アルバイトしているゲヒルン株式会社でエンジニアとして正社員登用される事が決まっています。
高校に不満を抱いている一方で、アルバイト先には現在のところ大変恵まれています。 特に、正社員登用が決まっているゲヒルンでは、のびのびと自分の裁量で働ける環境を得られたことに加え、以前から親交があり、またよい刺激を受けてきた仲間と一緒に働く事ができています。
私の詳細な職歴については、以下のエントリもご覧ください。
2013-12-22T08:18:09Z
@yukkuri_sinai さんが、本エントリの派生エントリを書いて下さりましたので共有します。
本エントリのタイトルからもお察しかと思いますが、それぞれ色々な学校に所属する(していた)諸氏の体験談を知りたくて、まずは自分の体験談を語る本エントリを執筆しました。 そのため、思惑通り木更津高専での体験談を読むことができて幸いです。 他にも、体験談をお持ちの方はブログエントリとして共有していただければと存じます。
2013-12-23T08:19:32Z
私の後輩で、直接の面識がある @sukukyon が、同じ学校の同じ分野に所属する別視点のエントリとして、以下のエントリを書いてくれたので共有します。
2013-12-26T07:18:00Z
電気通信大学の id:masawada さんも本エントリの派生エントリを書いてくださったので共有します。
2018-12-31T07:00:00Z
慶應義塾大学理工学部情報工学科の mt_caret さんが5年越しに派生記事を書いてくださいました。
2019-10-11T05:00:00Z
岩手県立大学の Eddie さんも本記事の派生記事を書いてくださっており、それを遅ればせながら発見したので追記します。
自身が持つ選択肢それぞれについてしっかりと検討した上で、そこで行われる情報教育には(それほど)期待せずに、代わりに得られるものも総合的に勘案した上で進学先を選ぶことも立派な進路選択だと思います。 Eddie さんのように学校における情報教育のことは割り切った上で、代わりに自学に割ける自由な時間を得ることができれば、わたしでも「進学先を間違えた」とは結論付けなかったかもしれません。
この点はわたしがこの記事の「 不満点 」で書いた通りです。
- 分野特有の授業に加えてセンター入試等に必要になる教科も履修する、時間的に無理があるカリキュラムが組まれている
- 無理があるカリキュラムであるため自宅学習課題の量が多かった
- 放課後の時間を使って課題を処理することが求められた
- 無理があるカリキュラムであるため終業時刻は他の学校のそれと比べると遅い = そもそも放課後にとれる時間が少ない
- わずかに確保できた放課後の時間は課題の処理に溶かされていく
- スキル向上を図る独学のために確保できる時間は皆無だった